/dev/null/onishy

どーも。

Imagine how your dreams come true, EEIC.

の目覚めは、いつも通り無意識だった。

この腕に貼り付けられたウェアラブル端末によって、起床時刻に目覚まし代わりの心地よい電気刺激が与えられるのだ。まぁウェアラブルなんて言葉は今では当たり前すぎて、ほとんど聞かなくなった古い言葉だ。

メガネをかけると、壁に今日の予定が現れた。仕組みはよく分からないが、レンズ全体が透明なディスプレイになっていて、現実世界に重ねて映像が映し出されるのだ。

「1時間後にミーティング!!」

全てが適切にスケジューリングされていて、今では、時刻を意識することすら少ない。


布団を脱ぎ捨ててリビングに下りると、母がテレビ(メガネに映し出されているのだ)を見ながら朝食をとっていた。

「今年は、イチゴが安いらしいわよ」と母が言った。

農業は完全に自動化されているが、翌年の需要や収穫率が予測され(あるいはそれを制御するために)、生産量が制御されるのだ。

朝ドラを映していた僕のメガネに「母さんと同じチャンネル」と話しかける。3D映像の記者が、青森県のイチゴ工場を取材していた。


母は「行ってくるわね」と言うと自動車に乗り、音もなく出かけた。電気で動く自動車はとても静かだ。

母は車が近づくと警告を出してくれるメガネなしでは、未だに外に出るのが怖いらしい。もっとも、自動運転だから事故に遭うほうが難しいと思うのだけれど。


そういえば、最近は「電気」なんてものは意識しなくなってしまった。

無線給電でコンセントなんて危ないものはなくなってしまったし、昔は街中に張り巡らされていたらしい電信柱も、今では全部地中に埋まって、ロボットによって自動でメンテナンスが行われる。発電に用いる資源の問題も、核融合炉が実用化されてからはすっかり静かになった。

電気を意識するのは雷の日くらいだ。


僕は部屋に戻って、今日の仕事を始める。

「ミーティング」と呼ばれるこの仕事では、人工知能の合成音声と会話をして、たまに簡単な作業をするだけだ。合成音声と言っても人間の音声と聞き分けがつかないし、人間と会話するのと何ら変わりはない。でも強いて言うなら、「人工知能」の本体を見たことがないのは変な気持ちだ。

この会話を通して、人工知能は何かを学んで賢くなるらしい。今では、芸能人なんかを除いて、国民のほとんどがこの仕事をしている。

人工知能に認められた一部の変わった人たちは、コンピュータと一緒に研究機関で新しい技術を作っているらしい。


今日の「ミーティング」では、人工知能と他愛もない会話をしながら、昨日ドローン便で届いた立体のブロックを使ってパズルを解いた。

人工知能によれば、なんでも、これは次の宇宙探査機の形状を最適化するのに役立つらしい。

宇宙開発といえば、最近は火星の開発が活発で、中でも嫌気性細菌を送り込んで酸素を生み出すプロジェクトと、大規模な国際データセンター設置のプロジェクトをよく耳にする。まぁ案の定、環境保護団体がうるさいけれど。


4時間くらい仕事をした。 疲れたけど、今日の仕事はこれで終わり。

最近の研究によると、一日の適切な仕事時間は3時間くらいだそうだ。それ以外は、友達と遊んだり、映画を見たり、日記や物語を書いたりすることが推奨されている。

そういう経験のほうが、「ミーティング」で人工知能にとって人から学べることが増えるんだそうだ。


ベッドに寝転んで、今日見る映画を選んでいると、友人からメッセージがきた。

「勉強会しようぜ!」

僕は快諾すると、支度を始めた。 オンラインだから家を出る必要はないけれど、服を着替える。

知識でコンピュータに勝つことはできないけれど、何かを「学ぶ」のは、すごく楽しい。

参考資料

スペキュラティブ・デザイン

とは、「未来を夢想し、そこにある課題を先取りする」問題提起の方法です。

どんな未来を目指しましょうか。